kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

日本の通貨制度③金本位制の導入、廃止、そして「円元パー」政策の失敗ーーー松元崇『持たざる国への道』第二部軍部が理解しなった金本位制

前回は日本銀行を設立し、銀本位制を確立し、通貨がようやく安定したところまでまとめました。ここから金本位制の導入です。これが苦難の道なんですよね。 kyoyamayuko.hatenablog.com kyoyamayuko.hatenablog.com 今回も松元崇さんの本についていきたいと思…

日本の通貨制度②明治の通貨制度、日本銀行設立まで(銀兌換紙幣の発行)ーーー松元崇『持たざる国への道』第二部軍部が理解しなった金本位制

こちらのblogの続きになります。江戸から明治へ。いったい何が起こったのか。 kyoyamayuko.hatenablog.com 松元崇さんの本をまとめていきます。 太政官札の価格維持 幕末の金の大量流出で、明治維新政府が通過政策として最初に取り組んだのが、太政官札の価…

『おとめ六法』はおとめだけにあらず。性別に関わらずイジメの被害者は目を通しておくべき本。

『こども六法』が流行ってから○○六法シリーズが増えていますよね。 この『おとめ六法』は女性たちが困難に陥ったときに関わる法律をまとめています。 イラストがかわいいですよね。手に取りたくなるかわいらしさです。 ちなみに、『おっさんず六法』*1とい…

日本の通貨制度①江戸の通貨制度ーーー松元崇『持たざる国への道』第二部軍部が理解しなかった金本位制の読書ノート

松元崇さんの本を通して、財政・金融面からなぜ日本は戦争を選択したのかをまとめたのがこちらの記事ですが、軍部の財政・金融政策がいかにおかしかったかを理解するためには通貨制度を理解する必要があります。が、それを通史と一緒にまとめるとややこしく…

システムにはできず脆弱さにできることーーー『いのっちの手紙』を読んで

話題になった本です。 精神科医斎藤環と「いのっちの電話」という希死念慮のある方々の相談電話をしている坂口恭平さんの文通対談です。坂口恭平さんは、電話相談の仕事ではなくアーティストとして活動しながら電話相談するという精力的な方ですが、ご本人は…

【完】日中対立の始まり(3)日清戦争ーーー『中国史とつなげて学ぶ日本全史』

琉球処分まで書きました。ここでようやく日清戦争になります。 kyoyamayuko.hatenablog.com 岡本隆司さんの本をまとめていきたいと思います。 日清対立の争点は朝鮮半島*1ーーー朝鮮は属国が独立国か 日清修好条規の第1条相互不可侵条約で清朝が想定しての…

日中対立の始まり(2)日清修好条規、台湾出兵、琉球処分ーーー『中国史とつなげて学ぶ日本全史』

こちらの本をまとめていきます。近代以降をまとめますが、それ以前の時代もすばらしい内容なので、ぜひお時間のある方はどうぞ。オススメです。 日清修好条規 日米修好条約は日本史で習っても日清修好条規はそのほか他国と同じような扱いで、その具体的な中…

日中対立の始まり(1)「開国・和魂洋才」の日本と「開港・中体西用」の中国ーーー『中国史とつなげて学ぶ日本全史』

岡本隆司さんの『中国史とつなげて学ぶ日本全史』から均整の終わりから近代のはじまりについて日中関係に焦点をあけてまとめていきたい。 幕藩体制の崩壊 中国についてはこちらのblogにまとめましたが、日中比較するために重要な概念は「官民一体」「官民乖…

『冤罪をほどくー”供述弱者”とは誰か』ーーー組織は冤罪を生むが、個人が冤罪をほどく

中日新聞の大型記者コラム「ニュースを問う」の担当デスクしている著者。ネタ探しをしていた著者は滋賀県政担当記者・角雄記氏から西山美香さんのことを知る。知れば知るほど、冤罪ではないかという思いが募り、コラムのためにチームで取材をはじめる。 中日…

『ネットいじめの現在ーー子ども達の磁場でなにが起きているのか』の感想ーーーいじめ問題研究の視座

こちらの本は近畿圏の高校に大規模アンケート調査を行い、その結果をまとめたのがメインの本だ。 最近のネットいじめの傾向は、00年代に見られた個人攻撃形は減少し、発信者が悪意なく投稿したものが読み手が悪意を感じで炎上するタイプが増加しているそうだ…

なぜ中国の近代化は遅れたのかーーー『世界史とつなげて学ぶ中国全史』から学ぶ

現代の中国を紐解くために明朝、清朝について書き足していきたい。なぜ中国は日本とは異なる近代化の過程を経たのかわかります。一昔前まで、なぜ中国は近代化できないのかという問いが社会科学の世界にありました*1。岡本隆司さんの『世界史とつなげて学ぶ…

貨幣経済を否定したらどうなるか

岡本隆司のこちらの本は学びの多い本でした*1。まとめると大変なので最も興味深く読んだ点についてだけメモしたいと思います。まずはモンゴル帝国がどれだけ栄えて経済発展したのか、それに対してなぜ明は商業を否定する政策をとったのかをみていきたいと思…

ホモソーシャルな関係の乗り越え方ーーー『「非モテ」からはじまる男性学』の感想

ネットでも日常でも「非モテ」という言葉は聞かれるし、男性自ら「俺は非モテ」と自称するする人もいるが、非モテとはいったんなんなのだろうか。一般的なイメージでは「モテない男」というイメージだし、weblioでも同様の定義をしている*1。 「非モテ」の…

『炎上社会を考える』の感想@キャンセルカルチャーのまとめ

伊藤昌亮氏の新刊の『炎上社会を考えるーーー自粛警察からキャンセルカルチャーまで』は、読むなら「今でしょ!」(死語)という感じのドンピシャな本でした。 この本はSNSトラブルの社会史であり、この新しい現象を読み解く視座を与えてくれます。東浩紀よ…

『ブループリント 「よい未来」を築くための進化論と人類史』の感想②友情、友(内集団)/敵(外集団)、自己と他者、利他的行為

昨日も書いた感想だが、今日は下巻を中心に気になったところメモ。 kyoyamayuko.hatenablog.com 友情は道徳の基盤 第7章動物の友達では、「友情は動物界ではめったに見られない」(58)を確認している。人間の人らしさの一つには「友情」が一つの指標である…

『ブループリント 「よい未来」を築くための進化論と人類史』の感想

ニコラス・クリスタキスのこの本を知ったのは、綿野恵太さんの『みんな政治でバカになる』*1 の参考文献からでした。上下巻の大著でしたが、興味深く読みました。著者は、「善き社会を作り上げるための進化的青写真(=社会性一式:social suit)」は人間の…

『囚われのいじめ問題 未完の大津中学生自殺事件』ーーーこの自殺は「イジメ」なのか、「家庭問題」なのか、それとも?

大津中学生自殺事件。あなたはどのようなイメージを抱いているだろうか? 私のイメージは、 クラスメイトからイジメの情報があったのに担任が適切な対応をとらず、イジメで自殺したというものだ。 イジメアンケートでもイジメの指摘があったのに学校も、教育…

アジアは目覚め、宗教・儒教から解放され、どこへ向かうのかーーー『初等科地理』と『近代アジアの啓蒙思想家』ーーー

だいぶ日が開いてしまった。日常が戻り忙しくなってきた。 意図して読んだわけではないのだが、この二冊を読んでいろいろ思うところがありました。 昭和18(1943)年発行の初等科の地理の本です。 今で言うところの小学校5、6年向けの地理の教科書なんです…

『分裂と統合で読む日本中世史』を読む

谷口雄太さんのこちらの本を読む。ありそうでなかった、痒いところに手が届く論点整理のうまい本でした。 中世を学ぶ意義 日本で最も分裂した時代が中世であり、それでも辛うじて分裂されずにつながっていた時代だそうだ。それはなぜなのか、というのを著者…

自由か、さもなくば幸福か?ーーー自由と幸福は対立するのか、ともに成り立つのか

blogのタイトルは大屋雄裕の『自由か、さもなくば幸福か?ーーー二十一世紀の<あり得べき社会>を問う』から引用したものです。 前のblogでは『<普遍性>をつくる哲学 「幸福」と「自由」をいかに守るか』について読書ノートをまとめたのですが、この本を読…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(3)ーーー現象学的言語ゲーム・普遍性を創出する

こちらの続きです。ここから本格的に著者のクリエイティブな提案がはじまります。まとめていきます。 kyoyamayuko.hatenablog.com 第四章 現象学的言語ゲームーーー普遍性を創出する 著者はこのように提案する。 現象学は人間と社会の本質を探求する。 この…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(2)ーーー現象学の原理・普遍認識の条件

読書ノートの続きです。岩内章太郎さんの本の骨子を勉強するためにまとめていきます。 kyoyamayuko.hatenablog.com 第三章 現象学の原理ーーー普遍認識の条件 135ー195 前回のblogでは、「多様ではあるが、相対的ではない世界」という俊逸な問いを立てたとこ…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(1)ーーー実在論と構築主義の相克

岩内章太郎さんの新刊を読んで、自分のなかでもやもやしていてよくわからなかった概念がクリアになりました。スッキリして視野が広がった感じがします。 読書ノート的にまとめていきたいと思います。 第1章 新しい実在論の登場ーーー普遍性は実在する 17ー75 …

『中国共産党、その百年』の感想

既に話題の本ですが、石川禎浩さんの新著は大変面白かったです。読み物としても、小難しい論文調ではなく、語り口調が上手く引き込まれていきます。最後まで読ませてくれる本でした。 これまでblogにも書いてきましたが、私の場合、中帰連、日中戦争に関心を…

餓死した象にも慰霊碑があるのにーーー戦争孤児のリアルな実態

戦争孤児といえば「火垂るの墓」が思い浮かぶ。火垂るの墓では、神戸大空襲で親を失った戦災孤児の話だ。「個人的」な物語というイメージが強い。しかし、戦争孤児である金田茉莉の著作を読んで、戦災孤児とは政府の失策から生まれた「組織的」なものだとい…

もうひとつの声(4)ーーー今を生きる仙人・大原扁理、高原の世界のバイブル

このシリーズはひとまず終えたつもりだったんです。 でも『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』で紹介されていた大原扁理の本を読んでみたんです。タイトルは知っていたんです。いまどき流行りの低年収でいかにやりくりするかという本かと思っていま…

『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』の感想

ワクワクするタイトルです。 新しい社会ってどうやって生まれてくるのだろうか。 ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』*1をもじったタイトルなのがわかります。 著者は2010年代にひろがったミニマリズム(最小限主義)の現象と消費社…

東亜同文書院と地下人脈(2)ーーー里見甫を中心に

こちらの記事の続きです。今回は里見甫を中心にまとめていきます。 kyoyamayuko.hatenablog.com 『日中を懸ける』を読んで東亜同文書院について興味を持ちました。この本は巻末に索引までついているのですが、里見の名前は一切出てきません。私の中では里見…

ケアの倫理と「母性2.0」ーーー元橋利恵『母性の抑圧と抵抗』

2.0ってもはや死語ですか? 「母性」の語りのレンジを広げるために、フェミニズムが到達した母性批判を超えて再構成するときがきたのではないだろうか。 それは単に「母性」、女性に「だけ」関わる話なんかではない。ケアの倫理は、近代思想の基盤にある「自…

さよならは突然やってくるー谷川俊太郎詩集「はだか」

さようなら ぼくもういかなきゃなんない すぐいかなきゃなんない どこへいくのかわからないけれど さくらのなみきのしたをとおって おおどおりのしんごうでわたって いつもながめているやまをめじるしに ひとりでいかなきゃなんない どうしてなのかしらない…