谷口雄太さんのこちらの本を読む。ありそうでなかった、痒いところに手が届く論点整理のうまい本でした。
中世を学ぶ意義
日本で最も分裂した時代が中世であり、それでも辛うじて分裂されずにつながっていた時代だそうだ。それはなぜなのか、というのを著者は読み解いていく。
現代という時代も分裂し、「新しい中世」の容貌を呈しているそうだ。これだけ分裂しつつあるのにそれでも辛うじて結び付いているのはなぜなのか。読み解くヒントが中世にあるのかもしれない。著者は「統合の核」(26)について解明しようとしている。
●「新しい中世」論の書籍
分裂のダイナミクスーー場所と社会的地位ーー
著者は分裂の動きについて「東と西」「南と北」「内と外」という場所の論理と「朝廷と幕府」「寺社と宗教」「生業と身分」の社会的地位によって分裂していく過程を説明する。分裂、遠心力のメカニズム。
統合のネットワークーー「都鄙雅俗」の論理ーー
柳田国男の「都鄙雅俗」を参考にしながら、「中央と地方」「天皇と将軍」のネットワークによって遠心力で離れていきそうな場所や地位を網目を結んでいく姿を説明している。
著者の研究分野である室町時代の将軍が戦国時代でも維持されたのはなぜなのか、という話が興味深かったです。
まとめ
日本史で聞いたことがある様々な学説の論点整理をして、遠心力と論理と求心力を維持するメカニズムを簡潔にまとめているため学びの多い本でした。参考文献一覧がついているので、興味の持った学説について知りたければそれらの本を読めばいいわけです。
ありそうでなかった本でした。細かい歴史の事例について深堀りすることこそ史学の研究ですが、それだけでは細分化され、全体像が見えなくなります。多様である社会が、それでも一つにまとまっているのはなぜなのか。古くて新しいテーマにハッとさせられました。