『中国共産党、その百年』の感想
既に話題の本ですが、石川禎浩さんの新著は大変面白かったです。読み物としても、小難しい論文調ではなく、語り口調が上手く引き込まれていきます。最後まで読ませてくれる本でした。
これまでblogにも書いてきましたが、私の場合、中帰連、日中戦争に関心をもち、ようやく中国自体を理解しようと思って本をいろいろ探したり、読んだりしていたのですが、この本はドンピシャでした。初心者が読んでも面白いし、深いところまで理解できたような気がします。
私なりに興味をもったところを簡単にまとめます。
中国共産党の「共産主義」ってなに?
共産主義というとカール・マルクスの共産主義をイメージしてしまいますが、中国共産党にとっての共産主義とはコミンテルン、ボリシシェヴィズムという指摘は目から鱗だった*1。その理由は、超要約すると、中国の共産主義運動が世界的に見て後発であり、中国で共産主義運動がはじまるとき世界の共産主義運動はコミンテルンが主流だったからという歴史的な事情によるものだった。
現在の中国であっても共産党に入党するときは、自らを党という組織の歯車としてすべてを捧げる服従の誓いがある。マルクスの時代にはこのような「絶対服従」の規定は希薄だったが、この「鉄の規律」「絶対服従」の組織原理はレーニンのボリシェヴィキ時代、国産共産主義運動ではコミンテルン時代になって以後のことだという*2。中国共産党のこの組織原理は今でもなお継承されているが、コミンテルン由来であることを知っておく必要がある。マルキシズムでは理解できないのだ。
また、実際に中国共産党は組織を結成した当初からソ連の指導を受けていた。
なぜ中国共産党は建国できたのかーーー日本軍という巨大な敵が中国を一つにしかたら。思わぬアシストで生き延びる。
中国共産党と国民党は互いに敵同士で戦いあっていました。日本軍は本丸の敵ではありません。広い中国では、近代国家を成立させるためには「一つの中国」というナショナリズムが必要です。日本は、日中戦争により、華北地域だけでなく中国全土の各地を攻撃しました。「日本軍はそれまでのどの列強よりも広い範囲に、大量に、長期間にわたって、それも単一国家による侵略軍として現れた」(138)ことで、中国ナショナリズムを醸成したそうだ*3。
中国共産党は、国民党の共産党征伐で灰燼に帰す寸前だった。それを日本軍が国民党と第二次上海事変で戦い、国民党が危機になったことで、共産党は生き延びることができた。蒋介石国民党からしかけた第二次上海事変は、日本軍に対しても中国共産党に対しても判断の誤った戦闘でした。共産党壊滅を優先すれば、歴史は変わっていたかもしれないのです。
中国共産党にとって日本軍とは国民党軍を弱らせ、しかも中国全土で戦闘を行い、敵として「共通の体験」を与えたことで、逆に「中国人」というナショナリズムを生み出した存在でした。
日本敗戦後は国民党と中国共産党が内戦に突入します。内戦の潮目が変わったのは1947年後半だったそうだ*4。国民党は施行予定の憲政(国民党の一党独裁の放棄と民主的選挙の実施)が自党批判につながるのをおそれて憲政を停止し、民主派団体を弾圧し、支持を失った*5。
そのころ、共産党は「満州国」時代のラジオ放送の普及により、公共メディアが本土より進んでいた!東北で、宣伝工作をおこない世論をみかたにつけていた*6。日本が投資して作った通信インフラを共産党は活用したわけです。1948年にはついに国共の軍事バランスは大きく共産党に傾き、1949年10月に建国された。
尚、ソ連は日本敗戦後、国民党を支持しながら、影で共産党を支援していました。ソ連、ひどい(笑)。言い換えると現実主義的であり、日本の満州国の権益をもらう変わりに国民党支持していたんですが、毛沢東はソ連が嫌いでした。ソ連が嫌いになる気持ちはよくわかります。まぁ、でも、ソ連がいたから日本軍の装備などを譲り受けることができたんだけどね。
※第二次上海事変についてはこちらをどうぞ。蒋介石はドイツとアメリカの支援があったので強気でした。
毛沢東はなぜ偉大なのか?ーーー生き残ったからです
毛沢東ってなにがすごいのか?。超要約すると、過酷な戦闘のなかで死なずに生き残ったから、だということになる。この本だけでなく他の本を読んでいても感じるのは、よく中国共産党って生き残れたよな、という感想になります(笑)。まじですごい。日本軍だけでなく国民党軍もえげつなく虐殺してきますからね。生き残った幹部ほど、毛沢東自体が信仰になったていったところもあるのかもしれない、と思いました。建国後も何度も権力闘争がありましたが、あの戦いで生き残った「毛沢東」を敵に回すと、自分が生き残れない。。。そんな合理的な知性を超えた何かを、内戦に身を投じた幹部ほど思ってしまったのかもしれませんね。そのため、建国後、毛沢東の政策が失敗しても、指摘できない(指摘すると失脚させられるし)。
既に毛沢東亡きあとですが、天安門事件で、長老たちが民主化運動を弾圧したのは、ここまで犠牲にして作り上げた共産党国家を壊そうとする若者が許せなかったからというのも、過酷な戦いを読んだ後にはやけに納得しましたね。過酷な内戦を戦い抜いた長老ほど許せなかった。まぁ、もちろん今の時代から見たら許させる行為ではありませんが。。。内戦をサバイバルしたからこそ、毛沢東に逆らえないし、国家に反逆する者も許せないという感情はわからないでもありません。
結成当時、建国時の共産党と現在の共産党
党員の学歴や職業は大きく変わった。
結党の党員はほぼ知識人で占められていた。しかし、農村での活動と戦争を経た1949年の党員は6割が農民であり、高卒。大卒は1%にも届かず、非識字率(文字が読めない)兵士が7割いた。*7!!。中央レベルの指導者は全般的に高学歴だったが、中レベル以下の幹部は党への忠誠心は厚いが行政能力や文化的素養は低かったそうだ。そのため、党員と高学歴の多い都市部との間で摩擦が起こったという。大変です。
しかし、2020年時点では、全党員に占める大卒以上の割合は半分を超えました*8。約70年かけて教育が普及し、学歴をここまでひきあげたわけです。 今や中国は超格差社会ですからね。。。
といったところを興味深く読みました。
中華人民共和国、興味深い国です。つい、日本が侵略しなければ、果たして成立したのだろうかと考えてしまいます。日本抜きには語れない近代国家であることは間違いないでしょう。