さようなら
ぼくもういかなきゃなんない
すぐいかなきゃなんない
どこへいくのかわからないけれど
さくらのなみきのしたをとおって
おおどおりのしんごうでわたって
いつもながめているやまをめじるしに
ひとりでいかなきゃなんない
どうしてなのかしらないけれど
おかあさんごめんなさい
おとうさんにやさしくしてあげて
ぼくすききらいいわずなんでもたべる
ほんもいまよりたくさんよむとおもう
よるになったらほしをみる
ひるはいろんなひととはなしをする
そしてきっといちばんすきなものをみつける
みつけたらたいせつにしぬまでいきる
だからとおくにいってもさびしくないよ
ぼくもういかなきゃなんない
谷川俊太郎の『はだか』の「さようなら」が頭の中で響く。
子どもは、正確に言うと子どもの中の幼児が、さよならもいわずにさよならしてしまった。いつかはやってくるとわかっていたのに、頭ではわかっていたはずなのに。幼児のあの子はもういない。いなくなってしまった。
いっちゃった
いっちゃった
すべてを委ねてくれたあの子はもういない
ありがとう
ありがとう
私、とっても楽しかった
私も思いっきり甘えたよ
ありがとう
ありがとう
安心してね。あなたの温もりは忘れない。
お母さんは大丈夫。
大丈夫だから気をつけていってね
あなたがいってしまってもお母さんは忘れない
お母さんは大丈夫だよ
さようなら、ありがとう
自分のことを名前ではなく「おれ」と言うようになって
あの子はさっと消えてしまった。