kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

日中対立の始まり(1)「開国・和魂洋才」の日本と「開港・中体西用」の中国ーーー『中国史とつなげて学ぶ日本全史』

岡本隆司さんの『中国史とつなげて学ぶ日本全史』から均整の終わりから近代のはじまりについて日中関係に焦点をあけてまとめていきたい。

 

中国史とつなげて学ぶ 日本全史

 

幕藩体制の崩壊

 中国についてはこちらのblogにまとめましたが、日中比較するために重要な概念は「官民一体」「官民乖離」です。参考にしてもらえると助かります。

 なぜ藩体制が崩壊したのかといえば、時代の要請にこたえられなくなったからと言えます。官民一体だからこそいち早く西洋化し、政治体制を含めて変革していくのが日本なのです。

 

kyoyamayuko.hatenablog.com

 

幕府が作り上げてきたシステムは、「鎖国」の体制が前提でした。

藩と庶民をカッチリと組織し、三千万の人口を維持したまま、政治も経済も文化・思想も高密度で凝集させたことが大きな特徴です。海外の存在をほとんど想定する必要がなかったからこそ、なせる業でした。

163

しかし、「開国」を迫られ鎖国体制の前提が崩れます。凝集性の高い社会だからこそ「黒船の空砲一発で社会全体が大きく揺らいだ」(163 ).。

 上記のblogにも書きましたが官民一体の日本は、開国を迫られていち早く対応していきますが、官民乖離している中国は流動性の高い社会でバラバラ。各地域が海外と勝手に貿易していて統制がとれていません。だからこそ「アヘン戦争で沿岸地域が打撃を受けても、全体の体制に」「大きな影響はなかった」(163)。「権力による社会の組織化の荒さがいわばクッションとなって、『西洋の衝撃』を吸収してしまったのです」(163)。

 アヘン戦争を見て恐れたのは中国より日本でした。それが幕府を倒し、新しい政府を作る原動力になっていきます。

 

漢語で西洋文化を吸収し、漢語から離脱する日本

 日本は西洋文化を吸収するために洋書を翻訳するようになりますが、洋書の文字を置き換えるのに漢語は便利でした。そのため明治維新以降は日本語が漢語化していきます。ここがまず第一変化です*1

 次に起きるのが、漢語が難しいので俗語で語ることがはじまります。ここで大きく貢献したのは福沢諭吉だそうです。

 従来、漢語を使うと言うことは、古典を踏まえて書くということでした。これが第一段階です。次に、俗語が普及します。これは漢語の古典を離れて、つまり「その語彙の由来や古典の結び付きに縛られず、ストレートに意味が伝わるような漢字を使って静養の翻訳後を編み出す」(172)になります。

 この第二段階で、中国のオリジナルな漢語と関係なく、西洋の言葉を翻訳した漢語が日本で生まれます。このインパクトは大きかったと著者は言います。まず「西洋の文明・文化を直輸入する道筋が成り立ったこと」(173)、「手段として漢字をつかいながら、実はそこに関わるはずの儒教や中国の歴史と切り離したこと」(173)、最後に「文章語として漢文の訓読体・読み下しという新しい文体の日本語が普及したこと」(173)です。

 このインパクトは大きかった。それは中国と比べるとよくわかります。中国の場合は、多元社会のため言葉を普遍的な価値・意義として置き換える必要があり、西洋の事物は「古典など中国由来のものとして還元することで」(175)使えるようになるため、「中国は古典を捨てられない」(175)わけです。多種多様な民族が誤解せず概念を使えるようにするため、古典に翻訳して共通理解を得るシステムになっているわけですね*2

 日本とはまったく別なんですね。漢語をまずは古典に意味を探し、なければ漢字を当てて漢語を作ることができるのは、多元性の小さい日本社会だからできたのかもしれません。

 

和魂洋才と中体西用

 日本の「和魂洋才」は日本の精神をもって西洋の知識を取り入れるという意味合いですが、政府も民間も基本的には西洋の知識を導入します。ここでも官民一体です。しかし、中国の「中体西用」の「西用」するのはあくまで民間人であり、「『中体』を大言するのは皇帝をはじめてする中央の政治家や知識人」(176)であり、政府や中枢の知識人は西用しない。ここでも官民乖離の構造が現れています。

 その結果、中国は「開港」はしても「開国」はしません。開港して外国の一部と取引をしても、開国して外国とつきあい関係にはならない。日本と比べるとよくわかるでしょう。

 

 

今日はここまで!

幕藩体制を崩壊させた通過体制についても触れたかったけれど、通貨制度については松元崇さんとコンボでまとめたほうがよいので、時間がとれたときにまとめます。

*1:170ー172を私なりに超約しました。

*2:これは中国に限らず、イスラム世界でも同様だそうです。西洋社会がラテン語に立ち返るのも同じかもしれませんね