kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

その先の思想

システムにはできず脆弱さにできることーーー『いのっちの手紙』を読んで

話題になった本です。 精神科医斎藤環と「いのっちの電話」という希死念慮のある方々の相談電話をしている坂口恭平さんの文通対談です。坂口恭平さんは、電話相談の仕事ではなくアーティストとして活動しながら電話相談するという精力的な方ですが、ご本人は…

『炎上社会を考える』の感想@キャンセルカルチャーのまとめ

伊藤昌亮氏の新刊の『炎上社会を考えるーーー自粛警察からキャンセルカルチャーまで』は、読むなら「今でしょ!」(死語)という感じのドンピシャな本でした。 この本はSNSトラブルの社会史であり、この新しい現象を読み解く視座を与えてくれます。東浩紀よ…

先取りの配慮は幸福を約束するか?ーーーべてるの家から考える

たまたまこの本を読んでいたんですよね。 有名な「べてるの家」ですが、鈴木敏明医師の言葉が、先のblogの大屋雄裕のこのテーマの答だなって思ったんですよね。 我々が何を望むかについてあらかじめ配慮されることは、我々の幸福を約束してくれるのだろうか…

自由か、さもなくば幸福か?ーーー自由と幸福は対立するのか、ともに成り立つのか

blogのタイトルは大屋雄裕の『自由か、さもなくば幸福か?ーーー二十一世紀の<あり得べき社会>を問う』から引用したものです。 前のblogでは『<普遍性>をつくる哲学 「幸福」と「自由」をいかに守るか』について読書ノートをまとめたのですが、この本を読…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(3)ーーー現象学的言語ゲーム・普遍性を創出する

こちらの続きです。ここから本格的に著者のクリエイティブな提案がはじまります。まとめていきます。 kyoyamayuko.hatenablog.com 第四章 現象学的言語ゲームーーー普遍性を創出する 著者はこのように提案する。 現象学は人間と社会の本質を探求する。 この…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(2)ーーー現象学の原理・普遍認識の条件

読書ノートの続きです。岩内章太郎さんの本の骨子を勉強するためにまとめていきます。 kyoyamayuko.hatenablog.com 第三章 現象学の原理ーーー普遍認識の条件 135ー195 前回のblogでは、「多様ではあるが、相対的ではない世界」という俊逸な問いを立てたとこ…

『<普遍性>をつくる哲学  「幸福」と「自由」をいかに守るか』の読書ノート(1)ーーー実在論と構築主義の相克

岩内章太郎さんの新刊を読んで、自分のなかでもやもやしていてよくわからなかった概念がクリアになりました。スッキリして視野が広がった感じがします。 読書ノート的にまとめていきたいと思います。 第1章 新しい実在論の登場ーーー普遍性は実在する 17ー75 …

もうひとつの声(2)2ーーーーカウンターカルチャー、自分探し、完全自殺マニュアルの登場

このblogで書き落としたもうひとつの側面についても触れておきたいと思います。それは「自分探し」の系譜です。 kyoyamayuko.hatenablog.com 写真アフロ この手の流れについて正史があるのかもしれませんが、その手の本を読んでいないので私の印象で思いつい…

もうひとつの声(4)ーーー今を生きる仙人・大原扁理、高原の世界のバイブル

このシリーズはひとまず終えたつもりだったんです。 でも『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』で紹介されていた大原扁理の本を読んでみたんです。タイトルは知っていたんです。いまどき流行りの低年収でいかにやりくりするかという本かと思っていま…

『消費ミニマリズムの倫理と脱資本主義の精神』の感想

ワクワクするタイトルです。 新しい社会ってどうやって生まれてくるのだろうか。 ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』*1をもじったタイトルなのがわかります。 著者は2010年代にひろがったミニマリズム(最小限主義)の現象と消費社…

もうひとつの声、はるかな呼び声

blog記事のシリーズがまとまったので、ここでひとつにまとめよう。元橋利恵さんの『母性の抑圧と抵抗』*1を読んで最新のケアの倫理を学びました。ケアの倫理は近代思想が前提としている「自立 /自律した自我」を相対化し、先の思想にむけた新しい自我論にとっ…

もうひとつの声・番外編ーーーべてるの家、当事者の集まり

「自立/自律した個人」ではなくても生きていく方法。今回の流れでは取り上げなかったが、日本で最も有名な事例は「べてるの家」ではないだろうか。 べてるの家とは、北海道浦河町に設立された精神疾患の当事者が活動する拠点であり、職・住をともにして暮ら…

もう一つの声(3)ーーー半分降りてつながる。素人の乱、ギークハウス、しょぼい革命、山奥ニート

近代の「自立/自律した個人」ではない生き方の模索として、前回は90年代後半以降に社会に広がった厭労働感についてまとめた。 kyoyamayuko.hatenablog.com 働きたくない。働けない。あんなに頑張れない。なんで働かなければいけないのだろう。安定した大手…

現代人はなぜ生きることの意味を失ってしまうのか

前回のblog記事は苦しい内容でした。 kyoyamayuko.hatenablog.com 荒野の砂つぶのような存在。割れた地面の底から吹き上げる風。虚しく寂しい。寒々しい。この虚しさはどこから吹き上げてくるのか。なぜこんなに虚しいのか。こんなにも虚しいのになぜ人は生…

まなざし不在の地獄、生の慟哭、大量殺人もしくは子殺し

もう一つの声(3)を書こうと思ったのだけど、『令和元年のテロリズム』を一気読みしてしまったので、「自律/自立した個人」であることから疎外された苦しみ、ダークな側面について書いておきたい。「弱者」男性の身の奥底から響く雄叫びについて触れておかな…

もう一つの声(2)1ーーー脱サラ、フリーター、そしてニート、ひきこもりの登場

近代の「自律/自立した個人」ではない生き方の模索として、前回はコミューンまで書きました。その続きです。 kyoyamayuko.hatenablog.com 「半分降りる」生き方を書く前に、もう一つ押さえておきたい生き方を書いておこう。 脱サラ、フリーター 日本では1970…

もうひとつの声(1)ーーー全部降りたら大変だった。コミューンの実践

「弱者男性」論は近代思想の「自立/自律した個人」モデルから排除された、疎外された「何か」だとするならば*1、自立した個人では「ない」生き方は社会を変えていくことができるのだろうか。 大きな山は変わらない姿であり続けるかもしれないが、少しずつ土…

ケアの倫理と「弱者男性」論ーーー自律した個人モデルから排除された男性はネット寄せ場で暗黒思想を紡ぎ出すしかないのか

フェミニズムは、近代思想が前提とする「自立/自律した個人」モデルが女性を排除した抽象的な概念であることを明らかにしたのですが、実は一部の男性にとっても、特に「弱者男性」にとっても同じことが言えるのだと気づきました。この「自律した個人」モデ…