kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

ウエスト・サイド・ストーリー

スピルバーグのウエスト・サイド・ストーリーを見ました。

 

有名だけど見たことがない映画でした。

 

www.20thcenturystudios.jp

 

 私がこの映画の存在を初めて知ったのは父が実家から持ち帰ってきた石森章太郎の『サイボーグ009』のマンガでした。このマンガに出てくる002ジェット・リンクでした。登場シーンはウエストサイドストーリーさながら、名前もジェッツからとってますし、飛べるサイボーグです(笑)。藤子不二雄の『まんが道』でも出てきたかな?トキワ荘界隈の漫画家に絶大な影響を与えた映画です。

 また、バーンスタインの音楽は有名でしょう。あの楽曲「アメリカ」がウエストサイドストーリーの曲だったのを知ったのは、スピルバーグ版のCMを見たからでした(笑)。

 

 多くの漫画家に影響の与えた作品だし、ロミオとジュリエットをモチーフにしたミュージカル作品だし、なによりバーンスタインの楽曲とダンスが素晴らしいからコロナで鬱々とした気分を吹き飛ばしてくれはずだ。楽しめると思って意気揚々と映画館へ向かいました。

 

が!!!

 

ちょっと想定した物語と違っていました。以下、ネタバレなので見に行く予定の方は注意してください。

 

 

 

 

 

ジェッツのトニー。敵はシャークでリーダーはベルナルド。ベルナルドの妹マリアと恋仲に落ちるわけですが、トニーはシャークのリーダーを殺してしまいます。

ベルナルドと妹マリアと彼女のアニータは一緒に暮らしています。家賃が高いので移民はルームシェアをする。

 マリアは兄を殺したトニーを恋は盲目ゆえ許します。アニータから町から出ていけと言われる。ここまでは理解できるんですよ。もちろん映画の感想のなかには兄を殺した奴と寝るか?という怒りの声もありますが、そこはロミオとジュリエットという設定だから許容できました。というか、それを前提にしないとこの物語は成立しないしね(笑)。

 問題はここからです。トニーと待ち合わせしたけれど、警察がマリアの取り調べに来てその時間にはいけない。だから、ベルナルドが殺されて悲嘆にくれるアニータに懇願してドクの店に行ってもらいます。マリアよ。。。兄を殺した敵の家に行けとおまえそれ言っちゃう問題です(おまゆう問題)。恋に盲目故の残酷さよ。

 アニータはトニーの家にいくとジェッツの仲間たちがいて、当然の如くレイプされます(おそらく輪姦です)。その結果、アニータは「マリアはチノに殺された」と嘘を伝えます。マリアのお粗末なお願いのせいでアニータは犠牲になります。

 最後、トニーは絶望してチノを探して殺してもらおうとするが、マリアがようやく現れて生きていることを知ります。知って喜ぶトニーですが、そこにチノが現れてトニーを銃で撃ち殺します。

 

 ロミオとジュリエットをモチーフとしているのでトニーは死ぬ運命なのは既知でした。問題はこのレイプです。映画を見て目が点になりました。

 このレイプ必要ある? え?なんでレイプされた?敵方に一人で乗り込むなんて無理ゲーやろ。。。そもそも自分の彼氏を殺したトニーなんかに会いたくない。マリアの頼みでも行きたくないし、マリアはトニーと別れるべきと思うから余計に行きたくない。それをなんでわざわざ行き、レイプされた?

 

えーーーー!?!?!?

 

という混乱した気持ちになりました(笑)。帰りにすぐググりましたが、オリジナルもアニータはレイプされている。つまりデフォ設定です。

 エンディングにはFor Dadとあったので、スピルバーグはウエストサイドストーリーが好きな父親のためオリジナル版をなるべく崩さないように作ったのだろうと思います。

 が、おそらくスピルバーグもこのレイプには疑問があったのでしょう。このレイプシーンを批判するために巧みに構成されていたことがわかります。まず、トニーの住まいであり働く場所であるドクの店のおばあさん役には、オリジナル版でアニータ役で出演したリタ・モレノが配役されています。つまり、オリジナル版でレイプされたアニータです。彼女はジェッツのメンバーをみてこう言います。要約です。

 

「あなたが赤ちゃんから大人になるまで見つづけてきたが、その子達はレイピストになってしまった」

 

 スピルバーグはレイプ批判するためにこの配役をしたのでしょう。物語の構造は壊さない、でも映画内で批判の声をいれる。

 また、ジェッツのリフの彼女はあまり出番がない中で、最後のレイプシーンでは迫真の演技をします。ジェッツメンバーの男達から女たちは店の外に締め出される。ジェッツの彼女達は外からドアを叩き、叫びます。いままでそこまで目立たなかった彼女がアップで映ります。リフの彼女がそこまで懇願するのはなぜか。立場が違えば自分が犯される側だからではないでしょうか。男の非情さを感じたからでしょう。女は獲物、トロフィー、お飾りに過ぎない。アニータとリフの彼女は敵同士であってもシスターフッドを感じる場面でした。

 

 ウエストサイドストーリーの物語の構造は単純です。でも、ロミオとジュリエットをモチーフにしているからこそアニータにすべての矛盾が詰まった話だと思いました。物語の構造上、パッセンジャーが必要で、その役割はアニータしかいなかった。だからアニータはレイプされる。物語の構造からレイプが生まれる。悲恋の最大の犠牲者はアニータでしょう。そのため、トニーとマリアの悲恋では泣けない。今の世の中ではこんな単純な物語は作れないでしょう。トニーとマリアがお馬鹿に見えるからです。

 

 個人的には、アニータがメッセンジャー役をしなくても悲劇は作れると思いました。レイプシーンを入れなくてもマリアが遅れて来る、そこでチノに殺されても悲恋は成立します。しかし、ロミオとジュリエットをモチーフにしているため、マリアは死んだと誤解させなければいけない(と脚本家は思い込んでいる)から、あの不思議なレイプシーンが生まれているのです。そして、当時はそこにあまり疑問をもたずレイプシーンが入れられました。

 なぜか。想像するに、あの映画に熱狂していたのは女性ではなく男性でした。スピルバーグの父親であり、男性の漫画家たちでした。つまり「男目線」の映画なのです。

 日本の男性漫画家たちが模倣したのは、最初のダンスシーンやナイフのケンカシーンです。あのグループ同士のケンカシーンが男性漫画家に与えた影響は大きいでしょう。男目線の映画だからこそ、アニータのレイプはあまり気にせず見ていたと思います。アニータのレイプの話は聞いたことがありません。

 あの映画をみて男性達が熱狂したのはグループ同士の戦いであって、悲恋でもないしレイプでもない。映画の最初、中盤の鮮烈なダンスと音楽が記憶に残り、最後の方はあまり記憶に残っていないのかもしれません。でも。。。私は最後にこそ衝撃を受けました。

 

 批判的に書きましたが、バーンスタインの音楽とダンスは絶品でした。物語ではなく、音楽とダンスを楽しむ映画かもしれません。あのダンスは斬新で、影響を受けたのはよくわかりました。

 

 

※ポリコレ的にレイプシーンは良くないからいれるべきではないという話ではなく、なぜこんなレイプシーンを入れたのか疑問に思ったので自分なりに考えて書きました。誤解なきようお願いします。