kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

もうひとつの声(2)3ーーーーシックスサマナの人々。アジアの片隅で低収入で暮らし、買春、クスリの毎日、そして孤独死

シックスサマナという雑誌をご存知だろうか。

 

年末年始は暇になるのでKindle Unlimitedに加入してたところ、なぜか「あなたへのオススメ」本としてプッシュされていた。なんとなく読んでみたらこれが滅法面白いのだ。

 

これまで「もうひとつの声、はるかな呼び声」シリーズで経済的に自立/自律できない男性の「もう一つ」の生き方ついて書いてきた。

kyoyamayuko.hatenablog.com

 

また、ダークな側面について触れているblogには、

kyoyamayuko.hatenablog.com

このblogがある。シックスサマナはぼそっと池井多が『世界のひきこもり』*1で語る「外こもり」の人々が登場する。アジアの片隅で買春とクスリの日々を過ごす日本人男性がたくさん出てくるのだ。

あまりにクズ過ぎて記録に残ることは無いような方々だが、『シックスサマナ』を発刊する編集長クーロン黒沢は積極的に取材し、記録を残しているのだ。

 

クーロン黒沢と雑誌『シックスサマナ』の創刊

 『シックスサマナ』はクーロン黒沢が2014年4月に創刊した不定期販売の雑誌である。電子書籍であり、主にAmazonを中心に販売している。

 90年代に流行ったアングラ雑誌の雰囲気がぷんぷんしており、一風変わった人を取り上げて特集している。アジアの片隅で低収入で生きる日本人や電波系の人などだ。今や、昔のように取り上げることすらしなくなった、インパクツのある方々を特集している。

 いったいクーロン黒沢とはどんな人なのだろうか。ググるとこんな記事がありました。2017年の記事なので今は50代だそうです。1971年東京生まれ。

toyokeizai.net

 クーロン黒沢自体も日本社会のありがちな「サラリーマン人生」とはまったく異なる生き方をしていています。小学校から人付き合いが苦手で、中学校ではストレスのせいなのか大病を患い、高校に進学してもほとんど通えなくなります。入院中に読んだ本で海外に関心をもつ傍ら、昼間は家電量販店のアルバイトをし、夜はマジコン販売をして稼ぎつつ、ゲームライターをしていました。しかし、マジコン販売がグレーな商売だったため(訴訟リスクを怖れて)プノンペンに移住します。20代前半なのにこれだけでも数奇な人生ですね。そして、このプノンペン時代の人脈が、雑誌『シックスサマナ』でインパクツある方々を紹介することになります。

 この記事で黒沢は、

「1990年代はクスリや児童買春目当てで訪れる人が多かったですが、2010年ごろから純粋に儲けに来たという人が主流になった印象があります。アンダーグラウンドな空気からビジネスチャンスタイプに、という感じです」

と語り、シックスサマナの創刊の理由を、

「最初は日本人向けにカンボジア情報を載せるサイトでした。でも、1年くらいやっていて全然儲からなくて。ならば有料メルマガにして稼ぐモデルをと考えたところ、ちょっと割に合うものがなくて、最終的にアマゾン・キンドルに行き着きました」

と語っています。最初はインパクツのある人々の記録本ではなかった。ビジネス情報向けとして創刊したが儲からないので、最終的にはカオスだったプノンペン時代に暮らしていた人々を雑誌に登場させます。買春やクスリなどを愛好する人々の、表では語られることの無い話を取材し、記事にしています。結果として、当時のプノンペンの状況を残す記録にもなっています。

 シックスサマナはプノンペンに限らずインパクトのある男性を記録する媒体となっていきます。魅力ある「クズ」達に魅せられて、私はこの雑誌を読みあさりました。

 

 プノンペンにハマった男・井上太夫とDJ北林

 私がこの雑誌を知ったのはつい最近なので、最新刊ではなんと彼らが死んだことから知ることになります。もちろん名前すら初耳でいったい誰やねんって話なんですが、追悼特集ではかれらの死んだ状況から説明が始まります。

 井上太夫さんの特集

シックスサマナ 第27号 漢の逝き様 野良犬のように死ね!

このほかにシックスサマナ3、4号にも生前の井上さんの特集があります。

 この巻では、彼の死から埋葬まで詳細に説明があり、しかも写真まで掲載されています。彼の数奇な運命。岐阜県出身でアパレルメーカーに勤務していた彼は仕事で台湾に行き、買春して少女買春にハマります。何度か渡航するうちに、働くのをやめて定収入でも生活でき、かつ安く買春できるプノンペンで生活します。まー、いろいろありまして彼は日本に帰国した際に児ポ法で捕まり、二年間臭い飯を食べます。更にいろいろあり、糖尿病となり失明し、日本に帰国するが、どうしてもプノンペンで暮らしたいという井上さんの要望を聞き、クーロン黒沢とその仲間たちは脱出を手伝います。全盲プノンペン生活がはじまるが、あるとき倒れてそのまま亡くなる。。。

 DJ北林。コロナで大好きなミャンマーやタイで生活できない毎日。クーロン黒沢とご飯をする約束をしたが、連絡がピタリと来なくなり、不安に思いながらも月日が経ち、自宅を尋ねたところ死んでいた。こちらの本では死の現場からはじまり、彼の海外生活時代の話をまとめたのがこちらの本です。買春、クスリ、殺人。内容がエグいので読む人を選ぶ話かもしれません。

シックスサマナ 第38号 勝ち逃げ野郎 爆走!親不孝街道

 

 

50代の彼らの物語ーー低収入で生活できるアジアの片隅で自由に生きる

 シックスサマナでは彼ら以外にも孤独死を発見したり、連絡がつかないので親族に連絡をとってみたところ既に死んでいたという話があふれています。彼らの大半は50代であり、いわゆる学生時代や新卒のときにはバブル期の世代です。海外渡航が当たり前になり、「自分探し」の旅が流行っていた世代の人たちでもあります。

 バブル崩壊後の日本は就職氷河期になるし、イケイケドンドンの会社もたくさん倒産しました。日本社会からあぶれた男性達は「ひきこもり」になったことは、もうひとつの声(2)2で書いた通りです。

 シックスサマナを読んでわかったことは、ひきこもり、いや「外こもり」(ぼそっと池井多)はアジアにいたのです。クスリと買春で時間を溶かしながら生きていた。かれらの貴重な暮らしぶりをシックスサマナで知ることができます。

 今回は書き切れませんでしたが、シックスサマナでは孤独死した男性や自殺した男性についても記録しています(官能小説家や岡本朋久など)。親族と絶縁された男たちの死に様について詳細に書いています。日本では新聞記事にも載らない死亡者ですが、クーロン黒沢路傍の石たちの記録を刻み続けています。

 

 しかし、そんな生き方にも終わりが来ます。アジア諸国が経済発展し、低収入でクスリと女で生活することが難しい状況になっていきます。日本との経済格差が縮小し、「低収入」の金額自体が上がってきています。シックスサマナの彼らのマッドな青春の話は今や夢物語になりつつあります。あの混沌としたアジアに遁世していた彼らは次々に亡くなっていっているのです。。。

 

*1:

世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現