先に『友だちをいじめる子どもの心がわかる本 (こころライブラリーイラスト版)』を読んでモヤモヤしたんですよね。いじめっこの気持ちがわかったとしても、じゃぁどうすればいいの?ってところが、保護者同士連携しようと言われてもって感じで。親がイジメに気づいた段階で相当に深刻な状態だろうし、小学校ならまだしも高校で保護者同士が連絡をとりあうとか無理ゲーだろう。
と思っていたところで、この本に出会いました。こちらは対策を分かりやすく書いてあってためになりました。
イジメの定義
イジメとは①相手に被害を与える行為、②反復性、③力の不均衡、④不平等な影響*1により構成される。
①は誰でもわかると思うので省略するが、②は一定期間繰り返し行われることだ。とはいえ、被害度が強ければ一回の加害行為でもイジメと見なされる。
③は加害者は被害者より肉体的、精神的、知的、経済的、情報力に強いことが多い。力の不均衡そのものはなくすことはできないが、力の不均衡を前提に加害行為をおこなうことは許されない。
④は被害者と加害者が受ける影響には不公平が存在する。被害者は大きな影響を受けるが、加害者は加害行為への罪の意識が希薄で影響が小さい。逆をいえば、罪の意識が強まれば後悔するだろう。
アンバランス・パワーとシンキング・エラー
イジメを深刻化させるときは加害者の「アンバランス・パワー」と「シンキング・エラー」が発生しているということを「みんな」で共有することが必要だ。
力の不均衡と不平等な影響をアンバランス・パワーと呼ぶ。イジメとイジリの境界線を考えるときにこの視点が重要なのだそうだ。例えば、生徒Aが生徒Bをイジリ、Bが言い返していたら力関係は対等なのでイジメではない。しかし、Bが言い返せず、かつ繰り返しいじられていたらイジメだと見なすことができる。
加害者のシンキング・エラーとは「あれは遊びだった」「このくらいしてもいいと思った」、先輩や教師など目上の者の場合は「自分にはそういうことをしてよい権限がある」「これは指導なのだ」という考えである。これは「間違った考え方(=シンキング・エラー)」だと「みんな」が共有する必要がある。
アンバランス・パワーを背景に「あそびだから」とシンキングエラーをおこして加害行為を繰り返しおこなうとき、それはイジメと判断できる。
また、イジメを無くそうとするときはアンバランス・パワーかシンキング・エラーのどちらかを崩すことで、状況が改善することができる。
イジメは個人ではなく包括的に対応する
イジメ対策は「個人」で対応しても限界がある。被害者、被害者の保護者、担任の個人だけで対応しても解決しない。まずは「包括的」な対応をしなければ解決しない。例えば、被害者が担任相談して、担任もイジメに対応しようとしても、担任の上司(主任や教頭、校長)が「そんなのはイジメのうちにはいらない」という認識であれば、イジメが矮小化され、問題は解決しない。事態は深刻化する。
イジメ対策をデザインする
著者は公衆衛生学の予防モデルを踏まえて三段階のイジメ予防モデルを提唱している。
・一次予防 すべてのこども対象にした啓発的、予防的取り組み
・二次予防 いじめかもしれない出来事に対応する初期対応
・三次予防 生じてしまったいじめへの介入支援
当然のことながら、イジメは予防が一番重要で、三次まで深刻化すると被害者だけでなく、加害者、傍観者、学校、保護者含めてダメージを受ける。予防、初期消化が重要だ。
いじめ予防プログラムTriple-Change
イジメは予防が大切だ。海外では予防プログラムが開発され、学校現場で適応されている。日本では子どもの発達研究所が「いじめ予防プログラムTriple-Change」を開発した。適応している学校もある。
予防プログラムは、カリキュラム、教科書、教員研修の3点セットが用意されており、「考え方の変化」「行動の変化」「集団の変化」の三つの変化を狙っている。子供だけでなく教職員にも変化を促し、包括的にイジメ対策を行う。
詳しくはプログラムを見てほしいが、参考までにイジメにあったときの行動について書いておこう。
イジメにあったときの行動
■行動を起こす前に
・まず、自分はひとりぼっちでないことに気づく
・いじめは加害者側の問題で、自分に落ち度があるわけではないと知る
■4つの基本的な行動
①誰かにこのことを言う(助けを求める)
②加害者にいじめをやめてほしいと伝える
③加害者の行動を無視し、その場から離れる
④自信のある態度をとる(そのほうがイジメが続きにくい)*2
傍観者のとるべき行動。
基本的に傍観者はイジメ行動をよくないと思っていても、実際には何もいわず、行動しない。でも実は他の傍観者も嫌だなと思っている。傍観者がいじめをやめるように加害者に言うと、即座にいじめ行動がストップする可能性が高いこともわかっている*3。
①「やめて」とはっきり言う
被害者はやめてと言えない。第三者が言うことで止まることがある。
②その場から離れさせる、その場を避けるようにさせる
③助けを求める
④被害者に問題がないことを確認する
⑤受け流す
加害者は被害者の反応を楽しむ傾向がある。傍観者が両者の間に入り、被害者が大き
く反応せず受け流せるようにする。
⑥ユーモアを使う
雰囲気を和らげて深刻化を防ぐ。
そのほかとして、いじめが起こらない集団作り、いじめのないクラスを作るためのガイドラインを作成するなどある。また、保護者支援の形成など。
学校風土を改善する
環境が行動に影響する。海外では学校風土を測定し、改善策を提案しているという。学校風土とは「教師と児童生徒の学校生活での経験パターンからくるもので、学校の決まり、目標、価値観、人間関係、授業実践、組織体などを反映したもの」*4だそうだ。
学校風土へのアプローチは、いじめの予防だけでなく、すべての子供の問題の予防、学力向上に有効だという。日本も海外のように学校風土を計測し、学校風土を改善していくサイクルを作ることを提案している。
まとめ
いじめは予防が大切だ。個人ではなく包括的に取り組まなければ改善しない。ハードなイジメに対処療法的に問題解決をはかっても一時しのぎにしかならない。
身近なところで特段なにかあったわけではないが、「予防」を意識して機会があれば学校に働きかけていきたい。その具体的な手法を学ぶことができたのが大きな成果だ。
今回は書かなかったが、いじめ重大事態案件の対応方法についても記載しているので興味がある方は読んでみるとよいだろう。