FEELS GOOD MAN 気持ちいいぜ
このドキュメンタリー映画、めちゃ面白かったです。
マンガのカエルキャラ・ぺぺがネットミームになり、2chのアメリカ版の4ch(というか2chを真似したアメリカ版匿名サイト)で非モテのアイコンになり、トランプ大統領選のアイコンとなり、オルト・ライトのアイコンになっていく。。。。ただのカエルのキャラが差別アイコンになっていく。。。
日本でいえば2chのモナー*1のネコアイコンが差別アイコンになっていくようなものなのかもしれない。日本の場合はにゃんこ大戦争などサブカルに留まったが、アメリカではサブにととまらず表の世界にまで飛びだし、突き動かしていくところが怖いところだ。
この映画を見終わったあと最初に思ったことは「アメリカはバカの層の厚みもすげーな!」ってことでした。
マンガを描いたマット・フリューリーは、ペペが自分の手を離れてネットミーム化し、偶像化されて差別アイコンとなったことで、なんとかペペを取り戻そうとするがどうにもならない過程を描いています。ペペの作者を知らなくても、ペペは誰もが知る存在となった。ぺぺの「物象化」*2過程を描いているんですよね。しかもぺぺは仮想通貨にもなるんですよwww。アメリカすげーっ!!!あほの規模が日本とは段違いだよ!
こういうのって記録が残りにくいんですよね。よくぞ映画にしてくれました。そこもアメリカっぽいなぁ。映画とは別にボーイズクラブのマンガとアニメを見たくなります。特にアニメは嗜僻性があると思います。
パンフレットをもとに年譜をまとめておきます。
2005年 マット・フリューリー、ボーイズ・クラブを「MySpace」発表
ネット投稿のマンガだったんですね。
4chの匿名掲示板で人気に。ぺぺのアイコン増殖。ニート、非モテのアイコンとして様々なイラスト増殖。この時点では非モテ・アイロニーキャラだった。
が、リア充の集まるインスタグラムでセレブがぺぺをアップすると、リア充にペペが広まる。顔を緑にぬるぺぺメイクが流行る。イイネが欲しくてみな真似をする。
リア充の女どものインスタグラムのぺぺ祭りに4chの非モテニート=ベータは憤慨しインスタ・リア充の一般人=ノーミーへの怒りを描いたぺぺの動画やイラストをアップしはじめる。4chで怒りのぺぺが過激化。攻撃性を増していく。そしてついに事件が起きる。
2014年 エリオット・ロジャー事件
非モテの銃乱射事件として4chでは祭りになる。ベータの反乱として崇めら
れる。
※事件の詳細はこちら。正式にはアイラビスタ銃乱射事件と言うらしい。
リア充への報復を煽りつづけついにペペのドヤ顔アイコンが生まれる。これです。
2015年 大統領選でドナルド・トランプが立候補
ドヤ顔のペペの化身としてトランプが扱われる。人を小バカにした顔。あごに指を添えるのがポイントらしい。
このトランプとペペについては4ch現象として捕らえると世界の見方を誤るだろう。なぜなら映画ではトランプ陣営のSNS戦略担当だったマット・ブレイナードを取材しているからだ。ブレイナードは「政治に関心のない層を巻き込む」ための最適戦略としてペペを取り込んでいるのだ。そこに恣意性、思惑、戦略があるのだ。従来の共和党支持者ではない「政治に無関心」層を掘り起こして当選したことを我々は目の当たりに見ている。
それだけではない。白人ナショナリストのリチャード・スペンサーや極右ネットニュースサイト「インフォウォーズ」司会者アレックス・ジョーンズはオルト・ライトのアイコンとして利用。ジョークを装いながら差別的なデマや陰謀論を流す。鍵十字のぺぺが誕生。
これにより名誉毀損防止同盟(ADL)にヘイトシンボルとして登録。ADLは米国最大のユダヤ人団体。
ヘイトシンボルになったぺぺの行方は。2019年8月に香港の民主化運動のシンボルとして復活。私もペペはここで存在を知りました。一方で、ペペはもともとヘイトのシンボルだったのにという声も聞こえてきたが、アメリカのネット文化に詳しくなくてよくわかりませんした。この映画をみてようやく理解しました。
アメリカのネット文化はこちらの本が参考になります。
2021年時点で見ると、トランプは再戦できず、最後にホワイトハウスを乗っ取り、祭りは終わったような気がします。4chのノリがホワイトハウス占拠にまでいきつくところにアメリカのあほ層の広さと奥行きを感じますね。そして、新型コロナ感染拡大で各国が国境を閉じている間に香港の民主化運動は終わりを告げました。香港に自由はなくなりました。
ペペは消えていくのだろうか。またどこかで現れるのだろうか。ペペはマット・フリューリーの手を離れて集合意識の表徴としてネット空間を漂い続けている。
こうやってまとめていても、アメリカのことがまったく他人事ではないというか。日本でも似たような事件がありますよね。銃社会ではないから車でナイフで大量殺人する「無敵の人」*3のテロなど。とはいえ、アメリカほど政治社会ではないからここまで深く政治に食い込んではいない。政治は高齢者のものだし。でも。。。オールド左翼と右翼が人口ボリューム層から去り、ネット勃興期の2ちゃんねら~の40代が高齢化していき、投票ボリュームゾーンになったら。。。私たちはアメリカを笑えるだろうか。共通する正義なんか既になく、共感なんかただの甘えでしかないと言われる優しくない社会で私たちは嗤うだけじゃないか。こんなクソみたいな社会はもっと腐っておもしろくなればいい。既得権益に預かれないなら草はえるくらい嗤わせてくれよ。ほの暗い欲求不満が広がる向こう側は消して彼岸ではないだろう。
嗤うという行為がネット集合意識として社会を動かしていく。政治と結び付き、戦略的に利用される。ふと北田暁大の本を思い出しました。
*1:モナーについてはのまネコ問題があったのでペペのようにならないかもしれないが。。。のまネコ問題 - Wikipedia