kyoyamayukoのブログ

私の墓にはルピナスを飾っておくれ

三者関係が萩尾望都作品に与えた影響

 萩尾望都の『一度きりの大泉の話』が話題ですが、「大泉サロン」が解体され、竹宮恵子増山法恵萩尾望都の三人の関係も変化する。竹宮本によれば大泉長屋の契約更新の時期が来たので「よい機会」と考えて新居を決めたのだ。もちろん、竹宮恵子にとっては萩尾望都の才能を目の当たりに見るのが辛く、側にいると頭痛や吐き気が止まらなくなったことが大きな理由である。萩尾望都にとっては、青天の霹靂でどうしたらいいかわからず竹宮恵子の新居のそばに引っ越すことに。これがまた竹宮恵子の悩みの種になり、最終的に決別してしまう。

 文学や映画について話し合い、自由に討論し、刺激し合った。まるで楽園のようだった。。。萩尾望都はサロン解散の本当の理由がわからぬまま、増山法恵竹宮恵子のスランプに寄り添って、竹宮恵子は相変わらずお茶に来て話をする萩尾に苛立ち、無意識に虎の尾を踏む萩尾。。。萩尾望都は楽園から追放された。本人はおそらくそう感じただろう。仲睦まじい三人が二人と一人に分かれたのだ。スケープゴート。。。。

 三者関係は不安定。この不安定な三者関係を描いた作品は多く、萩尾望都の作品に奥行きを与えている。ポーの一族トーマの心臓銀の三角、マージナル。。。ポーの一族ではエドガー、アラン、メリーベル(消滅)、トーマの心臓は重なるように三角関係がある。ユーリ、トーマ(死亡)、エーリク、ユーリ、エーリク、オスカー、そしてエーリク、エーリクの母親、義理の父親との三角関係に。母親が亡くなり義父と関係が良好になります。。。。

 1973年3月半ば、ポーの一族の「小鳥の巣」掲載後に萩尾望都は竹宮、増山にマンションに呼び出されて、作品を責められ「盗作ではないか」と言われる。3日ほど経ち、竹宮一人で萩尾邸に来て絶縁状を渡される。。。詳しくは萩尾自伝をどうぞ。

 

 関係破綻前の作品として『精霊狩り』がある。仲良しの精霊三人組。関係破綻後に「みんなでお茶を」[1974年『別冊少女コミック』4月号掲載]を描きましたが、萩尾自伝によれば三人の精霊のうち二人は増山法恵竹宮恵子をモデルにしていたので「もう描けないな」と気づいたそうです、「ああ、私はやっぱり、今後は二人に会うのは無理だな」と思いました、と。。。。「みんなでお茶を」というタイトルが切ない。ティールームは罰を与える場所としてトーマの心臓で描かれることになります。

精霊狩り―傑作短編集 (1976年) (小学館文庫)

 

 

 1977年の「十年目の鞠絵」[ビッグコミックオリジナル 1977年3/20号]は、『一度きりの大泉の話』のカミングアウトのあとには生々しさが際立つ作品です。美大の仲良し三人組、鞠絵、津川、島田だったが、津川と鞠絵は突然結婚し、以来音信不通に。。。デキの悪い自分に愛想を尽かしたのだとくよくよし続ける島田。。。まるで大泉サロンの三人ではないですか!

萩尾望都作品集 (〔第2期〕-16) エッグ・スタンド (プチコミックス)

※十年目の鞠絵、所収

 

 「十年目の鞠絵」がまるで三人の関係のようだという話は、ガエル記さんのblogで指摘されていて、かなり久しぶりに再読してみました。ガエル記さんのすごいところは、2019年に既に指摘されているんですよね。しかも、鞠絵の名前は、増山法恵、ますやまのりえのまりえからとったのではないかと指摘されていて慧眼です!

blog.goo.ne.jp

 gooブログからはてなブログへ移行中のようでして、こちららにも指摘してあります。

gaerial.hatenablog.com

 その後、中川右介氏の『萩尾望都竹宮惠子』[2020,幻冬舎新書]を読みましたが、その本のエピローグでこの「十年目の鞠絵」について触れています。ガエル記さんと同じ内容だったので、ガエル記さんがこの作品について語った夫とはもしかして中川右介さんかもしれません(確認はしていません)。

 

 萩尾望都のカミングアウト以降、SNS等で三人の関係が作品に影響されているのではないかというコメントが増えました。私も三者関係の複雑さを知って「まるで銀の三角みたい」とぼんやり思ったのですが、既に指摘したひとがいました。

m-dojo.hatenadiary.com

 こちらのブログの石ノ森章太郎手塚治虫の関係も興味深いのですが、ブログのしたの方にあるKIE=UNDERCOVER@kieteki[https://twitter.com/kieteki]さんの『銀の三角』ツイートが必見です。とても上手にまとめられているので、こちらのブログから拝借しますが、一読をオススメします。私もKIE=UNDERCOVERさんと同じく、『銀の三角』は三者関係の破綻の影響を強く感じます。

銀の三角 (白泉社文庫)

 『銀の三角』はとても複雑な話なので解説ははしょるが、マーリー、エロキュス、パントーの複雑な三角関係だ。動けないパントーのためマーリーとエロキュスが時空を超えてあちこち行き来する。最後にマーリーは聞く「夢?銀の三角の夢?」、ラグトーリンは最後に語る。「あれは不安な夢 育たない夢」と。パントーの夢はエロキュスに。エロキュスは消え去った夢の結晶体として岸辺で永久に生きる、。。。死を願うパントーを消し去り、エロキュスを岸辺に封印する。育たない夢を封印する。三人の楽園は封印された。

 不安定な三角関係の最高峰の作品が『銀の三角』だと思う。以降の作品では、三人関係が描かれても、これほどの痛みはない。

 例えば、マージナル。キラ、グリンジャ、アシジンの三人関係だが、最終的には安定した三人関係になるのだ(最初のキラは地球と一体化して消滅、クローンのキラと)。銀の三角以降は、三人関係を掌握して描けるようになったのではないだろうか。

[まとめ買い] マージナル(小学館文庫)

 

 三人関係の崩壊、楽園からの追放は、萩尾望都の作品に奥行きをもたせた。では、竹宮恵子の作品に影響はあったのだろうか。こちらのblogに書いたが、ニ者関係のあわいを描くのが竹宮惠子自身が好きな物語のため、三者関係崩壊の影響は小さいといえるだろう。

kyoyamayuko.hatenablog.com

 

 大泉サロンの関係の破綻は萩尾望都に影響を与え、作品にも影響したのは間違いない。作品を描くことで昇華され、次のステップ(親問題、親の愛情は支配か愛なのか)へ向かったのだろう。 

 

 最後に、三者関係の本ではないが「偽王」という作品がある。青年エジカは旅路で盲目のこじきに出会い、差別されるこじきに優しく接する。優しさに触れたこじきは少しずつ過去を思い出し、あるときすべてを思い出す。国王としてわがままに快楽を貪り、贖罪者として追放された過去を。こじきはなぜこんな辛いことを思い出させるのだと怒り、怯える。。。封印した記憶を甦らせるのは辛いことだ。楽園から追放された者にとっては。

 エジカに封印した記憶を思い出させられてこじき=王は死に追いやられる。竹宮恵子の「つらかった日々すら美しい思い出」は萩尾望都にとっては罰として楽園を追放された死にたくなる過去であり、封印することで生き延びることができた過去である。竹宮惠子が「少女マンガ史」の一場面として無邪気に語れば語るほど、萩尾望都は流砂に飲み込まれるような感覚に陥るのかもしれない。

 

半神 (小学館文庫)

※偽王、所収