すごい本でした。
今まで読んだ「心の病気」関連の本の中でこれ以上にわかりやすい本はないのではないだろうか。中学生向けの本ですが、大人が読んでも十分読みごたえがあります。わかりやすいのに奥行きがあります。
松本先生は鬼である。だって、中学生に「医療や福祉における悲惨は善意の顔してやってくる」(72)なんてなかなか言えないですよ。優しい人であれと教えられてきたわけだから。大人だってわからない人の方が多いんだから。でも、中学生に、これから大人になる子ともにむけてどうしても伝えたかったのだ。
以下、引用である。
「医療や福祉における悲惨は善意の顔してやってくる」ということです。人間の心には「正常な形」があって、病気の人の心を正常な形に整えることが治療においてもっとも大事だと思っている人は、そういうふうな治療を進めることが本人にとっていいことだと思っているのですが、それと相模原事件の犯人の思想と地続きです。あらかじめ自分の中に「正常な形」があって、ほかの人をその正常な形に近づけていくことが「正義」であるという考えは、相模原事件の犯人の思想とはっきり区別できるものではなく、両者にはたんなる量的な違いしかありません(72-73)。
「やさしい気持ち」や「善意」には、危険な側面がある、ということをよく覚えておいてください。なぜなら、そういった気持ちには「他人のある特定の"良い形"にしてあげたい」、あるいは「自分が思うとおりに他人をコントロールしたい」という考えがどこかに入りこんでくるからです。極端なことを言えば、精神障害や身体障害の人に対して「やさしい気持ちで接したい」と思っている人は、相模原の事件の犯人と似ているんです(77)。
自分の中のベタな優しさをメタ化する視点を教えようとする姿勢には共感しかない。